著作権に含まれる支分権の1つであり、主に「著作物を複製する行為」を専有する権利(著作権法21条)を指す。
著作権法における複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することと定義(同法2条1項15号)され、具体的にはコピー機で複写する行為、写真を撮る行為、音楽を録音する行為、映画をDVDに記録する行為、スキャナー等で電子的に読み取って保存する行為や、脚本等に類する演劇用の著作物の上演やTV放送を録音し又は録画する行為(同号イ)、建築に関する図面に従って建築物を完成させる行為(同号ロ)等と、元となる著作物の表現を物理的に又は何等かの媒体に固定し、再製する行為全般が該当する。
また、再製とは「既存の著作物と同一性のあるものを作成する行為」であるところ、多少の修正増減があっても既存の著作物の同一性を損なうことなく、「実質的に同一」であるものを作成する場合も含まれ(平成23年(ネ)第10006号(平成23年5月26日判決))、手書きによる著作物の模写等も複製の範囲に含まれる。
しかし、「有形的に」が要件の1つであることから、楽曲に従って演奏する行為や脚本に従って劇を上演する行為等は複製に含まれず、著作権法上は演奏権や上演権といった別の権利(同法22条等)によって保護される。
他方、著作権は著作物を創作した時点で発生するが、創作した著作物の表現部分が他の著作物と偶然にも似てしまうことがある。 よって、最高裁は著作権における複製について暗合を排し、「既存の著作物に依拠」した上で「その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」を複製の要件であると判示(昭和50(オ)324(昭和53年9月7日判決))した。そのため、たとえ実質的に同一といえる程度に類似性があったとしても、侵害を疑われている著作者が当該著作物に接した可能性が全くないときは、著作権法における複製権侵害の問題を生ずる余地はないと言われている。
また、著作権法における著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることから、思想又は感情そのものであったり構成又は単なるアイディア等といった表現とはいえない部分について既存の著作物と同一性があったとしても、複製にも翻案にも当たらないと解される(平成11年(受)第92213年(平成6月28日判決))。
なお、文化的所産である著作物を公正で円滑に利用するため、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする複製や、公表された著作物を所定の要件を満たした上で引用する行為等、一定の例外的な場合に限って複製権は制限され(同法30条、32条等)、権利者からの許諾等を要しない。しかし、著作者人格権は制限されない点(同法50条)や、利用に当たっては原則として出所の明示が必要である(同法48条)点等について留意すべきである。