知財用語集

背信的悪意

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 法律用語において、「善意」「悪意」は、

善意・・・事実を知らなかった

悪意・・・事実を知っていた

という意味をもつ。

 背信的悪意とは、単なる「悪意」を超えて、事実を知っていたうえで信義に背くような行為を行うことであり、法律上の明文規定はないため判例法理となる。
 民法177条にいう「第三者」(当事者・包括承継人を除く、登記の欠缺を主張する正当な法律上の利益を有する者)には、物権変動の事実についての悪意者を含むが、背信的悪意者は含まない、と判例上、解釈されている。

 知的財産権における代表判例としては、平成22年2月24日判決(平成21年(ネ)第10017 号)がある(バリ取りホルダー事件)。

 事案内容:企業Xの社員であるAは研究開発を行い、加工工具の発明(以下「本件発明」)を完成した。Aは上司に研究内容が書かれた書類等の提出をしていたが、業務命令により開発中止、工場が閉鎖となり、特許出願をするには至らなかった。
 その後、Aは通勤上の都合で企業Xを退職し、企業Yへ入社した。Aは引き続き本件発明の研究を企業Yで行い、企業Yから特許事務所を通し、特許出願を行った。

争点1.特許を受ける権利の帰属者の訴えの利益はあるか。
→訴えの利益あり。

争点2.発明者は誰か。
→A(発明の上で、上司等からアドバイスがあったことは認められるが、上司等が実質的な発明者であるとは認められない。)。

争点3.本件発明においてAから企業Xへの特許を受ける権利の譲渡はあったのか。
→Aは企業Xに所属していたため、職務発明規則上、特許を受ける権利の譲渡はあったといえる。

争点4.企業XからAへ特許を受ける権利の返還はあったのか。
→特許を受ける権利の返還はなかった。

争点5.企業Yは背信的悪意者にあたるのか、また、権利取得を企業Xへ主張できないのか。
→企業Yは、本件発明の特許を受ける権利が企業Xへ継承されているだろうと認識できる。
 また、企業Xにおける研究開発の中止は、特許を受ける権利の放棄を意味するものではなく、企業Yが特許を受ける権利を主張することは信義誠実の原則(信義則)違反といえる。したがって、企業Yは背信的悪意者にあたる。

争点6.企業Xの特許を受ける権利を有する旨の主張は信義則に反しないのか。
→企業Xの主張は、単に企業Yへの阻害行為であるとは認められない(信義則に反しない)。

 上記は、企業Yが企業Xの研究開発やそれに伴う権利の取得を積極的に阻害する目的が無かったにしても、企業Yの特許出願について背信的悪意が認められた事案である。
 裁判所の判断過程において信義誠実の原則(民法第1条第2項参照)を用いて判示されていることからも、背信的悪意の一概的な定義は難しいと考えられる。