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知財裁判例速報

平成28年(行ケ)第10180号 審決取消請求事件:ランフラットタイヤ

  • 2017/07/19
  • 知財裁判例速報

事件番号等

平成28年(行ケ)第10180号 審決取消請求事件

裁判年月日

平成29年7月11日

担当裁判所

知的財産高等裁判所(第4部)

権利種別

特許権(「ランフラットタイヤ」)

訴訟類型

行政訴訟(無効・不成立)

結果

請求棄却

趣旨

  1. 特許庁が無効2015-800156号事件について平成28年7月5日にした審決を取り消す。

取消事由

サポート要件違反(取消事由1)

実施可能要件違反(取消事由2)

引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)

引用発明1及び引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)

引用発明1及び引用発明3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由5)

引用発明4に基づく進歩性判断の誤り(取消事由6)

引用発明4及び引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由7)

裁判所の判断

  • 本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから,本件発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たす。よって,取消事由1は理由がない。
  • 本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから,実施可能要件を満たす。よって,取消事由2は理由がない。
  • 本件特許の原出願日当時,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物において,170℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着目することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。したがって,引用発明1において,この変動を2.9MPa以下に特定するという相違点1に係る本件発明の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできないから,相違点1に係る数値範囲の臨界的意義について検討するまでもなく,本件発明は,当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。よって,取消事由3は理由がない。
  • 引用発明1において,引用発明2を適用することで,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物において,170℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動を2.9MPa以下に特定するという相違点1に係る本件発明の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできない。以上によれば,本件発明は,引用発明1に引用発明2を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。よって,取消事由4は理由がない。
  • 引用発明1において,引用発明3を適用することで,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物において,170℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動を2.9MPa以下に特定するという相違点1に係る本件発明の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできない。以上によれば,本件発明は,引用発明1に引用発明3を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。よって,取消事由5は理由がない。
  • 引用発明4において,上記動的貯蔵弾性率の変動を2.9MPa以下に特定するという相違点3に係る本件発明の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできないから,相違点3に係る数値範囲の臨界的意義について検討するまでもなく,本件発明は,当業者が引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。よって,取消事由6は理由がない。
  • 引用発明4において,引用発明2を適用することで,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物において,170℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動を2.9MPa以下に特定するという相違点3に係る本件発明の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできない。以上によれば,本件発明は,引用発明4に引用発明2を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。よって,取消事由7は理由がない。
  • 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却する。

キーワード

進歩性(相違点の判断)/特許請求の範囲の記載要件(サポート要件)/明細書の記載要件(実施可能要件)



実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。


実務上役立つと思われる点を、以下の通り判決文より抜粋する。

 物の発明について実施可能要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があることを要する。

 

判決文